馬(サラブレッド)のエサはこれが理想!ニンジンは主食になるの?

馬の管理

馬って草食動物だけど、テレビを見るとなにか食べているよね?

そうですね。桶に入ったものをもりもりと食べている映像とかですか。

そうそう!あれってなにを食べているの?あと、ニンジンって馬のエサなの?

たしかにいろいろ入っていてよくわかりませんよね。じゃあ、馬のエサってどういう種類があるのかとニンジンを食べさせてもよいかどうかについて見てみましょう!

馬のエサをちらっと見たことがある方は、このようなことを一度は思ったことがあるのではないでしょうか?
「あの競馬で走っている馬たちは草だけ食べているの?」
「ニンジンは馬にとって重要なの?」
競走馬の飼料業界に10年以上携わっている筆者が、わかりやすく解説します!


馬のエサの種類

  1. 粗飼料
  2. 濃厚飼料

馬の飼料は、大きく「粗飼料(そしりょう)」と「濃厚飼料(のうこうしりょう)」に分けられます。
これは、競走馬でも在来馬でもペットホースでも変わりません。ちゃんと意味を理解することで適切な馬の管理ができるようになりますので、参考にしてみてください!

粗飼料

かんたんに言うと「」のことです。「粗い(あらい)」=「ガサ(容積)がある」という意味で草のことを粗飼料と呼びます。
馬に与える粗飼料は飼料用の草種(「牧草」と呼びます)で、雑草(例えばタンポポのような)とは異なり、その形態・つくり方により「放牧草」「乾草」「サイレージ」にまた分けることができます。

  • 放牧草  : 放牧地に生えている牧草
  • 乾草   : 牧草を育てて刈り取り天日乾燥したもの
  • サイレージ: 育てた牧草を刈り取り後に、ラップでぐるぐる巻き(またはビンに詰めて)にした漬物

粗飼料は、草食動物である馬が健康に生きるためにとても重要な飼料です

濃厚飼料

粗飼料に対して、「濃厚」=「容積の小さい・栄養素がぎゅっと詰まった」飼料のことを濃厚飼料と呼びます。

馬は、基本的に粗飼料だけで生きることができます。
ただし、馬は私たち人間とともに生きるためにさまざまな用途でパフォーマンスを発揮する必要があり、さらに馬自身もライフサイクルのなかで栄養がたくさん必要な場面がでてきます。例えば、競馬や乗馬、または出産や成長などですね。このようなシーンでは、粗飼料だけでは栄養が不足し、100%のちからが発揮できなくなります。そこで、粗飼料の一部を濃厚飼料に置き換えることで、不足分を補います。

馬に与える濃厚飼料はまた大きく

  • 単体飼料(単味飼料とも)
  • 配合飼料
  • 混合飼料(補助飼料ともサプリメントとも)

に分けられます。

単体飼料は、字のごとく単一の飼料そのままで、エン麦や大麦やフスマなどのことを指します。

配合飼料は、単体飼料をいろいろ混ぜて馬にとって最適のバランスに仕上げた飼料のことで、飼料メーカー会社によって大規模につくられています。

混合飼料はある栄養素だけを補充したいときなどに使われる飼料のことで、私たちの生活でいうところのサプリメントに近いものです。馬でもサプリメントがつかわれているんですね!
ただ、人間もそうですが、普段の食事が適当でサプリメントに頼る……というのはダメです。よって、馬のエサはまず粗飼料と単体飼料と配合飼料を中心に考えていきましょう。

さて、馬にとって最適なエサを考えるためには、エサに含まれる栄養素と馬の消化のしくみを少し知っておく必要がありますので、次で詳しく解説します。


エサの栄養素と消化のしくみ

馬は、実は私たち人間とあまり変わらない消化管の構造をしています。

もちろん私たちは草だけでは生きていけませんので、ちょっと違うところはありますが、私たちの消化管をイメージすることでよりわかりやすくなります。中学校の理科で習った栄養素の消化・吸収も一緒に思い出してみてください。

五大栄養素という言葉を理科で習ったのを覚えているでしょうか?「炭水化物」「タンパク質」「脂質」「ビタミン」「ミネラル」のことです。思い出したでしょうか?コンビニなどで食品を買ったときに裏に栄養素の含有量が書かれていますね。これです!ただし、馬の場合は炭水化物を「糖質」と「繊維」に分けて考える必要があります(※人間の場合も分けて書かれていますが、繊維はカロリー源にならない計算になっているところが馬と違います)。

馬のエサにもこの五大栄養素がもちろん入っており、エサによって何が多いとか何が少ないなど特徴があります。ご飯には炭水化物が多くて、肉にはタンパク質と脂質が多いというイメージができますよね。これを馬のエサにあてはめて考えていきましょう。

※ここからは、馬のなかでも競走馬(サラブレッド)のことを中心に考えていきます。もし在来馬などの場合は代謝能力などが異なりますので注意してください。

粗飼料(牧草)

糖質    ☆☆☆
繊維    ★★★
タンパク質 ★☆☆
脂質    ☆☆☆
ビタミン  ☆☆☆
ミネラル  ☆☆☆

粗飼料は、炭水化物のなかでも繊維を多く含みます。

繊維は、馬の健康維持のために非常に重要で、1日に食べるエサのなかで半分以上は繊維=草である必要があるとされています。繊維は、胃や小腸では分解できず、大腸にいる微生物の発酵により分解され有機酸となり、馬の栄養・エネルギーになります。タンパク質も少し含まれていますので、たくさん草を食べることでタンパク質も補うことはできます。

このようにエサを考えると、まるでゲームのステータスのようですね!実際にそのように考えると理解も深まりますし、頭の整理にもなりますよ!

単体飼料は、飼料によっていろいろな特徴があります。ここでは代表的な単体飼料を紹介します。

単体飼料 エン麦(馬に与える代表的な穀類)

糖質    ★★★
繊維    ☆☆☆
タンパク質 ★☆☆
脂質    ☆☆☆
ビタミン  ☆☆☆
ミネラル  ☆☆☆

エン麦は馬に与えられる代表的な穀類です。馬にとって嗜好性がよく、美味しく食べてくれます。

主成分は糖質で、この糖質を体内で燃やすことでエネルギーにしており、逆に、エネルギーを必要としていないときは不要で、草だけで十分ともいえます。だから、かならず与えなくてはいけないものではないのですね。

単体飼料 フスマ(小麦を小麦粉にしたあとの副産物)

糖質    ★☆☆
繊維    ★☆☆
タンパク質 ★★☆
脂質    ☆☆☆
ビタミン  ☆☆☆
ミネラル  ☆☆☆

フスマは、昔から使われている飼料で、小麦を小麦粉にする際に出てくる外皮のことです。

外皮なので繊維が豊富で、人間でも「●●ブラン」といった健康食品がありますが、このブラン=フスマのことです。ただ、馬の場合は粗飼料で繊維は十分摂れていますので、現代の馬の栄養学においては、実際のところフスマを与える必要はないとされています。もちろん与えても問題はありませんが、草を十分に与えている場合は不要、と覚えておくとよいでしょう。

単体飼料 植物油(キャノーラ油など)

糖質    ☆☆☆
繊維    ☆☆☆
タンパク質 ☆☆☆
脂質    ★★★
ビタミン  ☆☆☆
ミネラル  ☆☆☆

そう、馬のエサには油があるのです。油はほぼ100%脂質で構成されており、人間と同じようにエネルギー源となります。

なぜ、馬に油を与えるのでしょうか?
馬は粗飼料だけで生きていけます。ただしエネルギーを必要とするときに粗飼料の一部を穀類などで置き換え、糖質でエネルギーを補給します。
しかし馬は草しか食べないように進化してきたので糖質の消化がほかの動物に比べてうまくありません。馬の健康のためには、糖質は1回に与えられる量や1日に与えられる量を制限する必要があります。消化能力以上の糖質を食べるとお腹を壊してしまうからです。そこで、糖質をこれ以上与えられないときに油を与えます。
馬は油の消化能力が高く、しっかり小腸で消化してエネルギーとして吸収できます。あくまでエネルギーが不足する場合の最終手段ですが、油もエサに含まれるのですね。

さて、ここまで馬のエサを見てきて、「あれ?ビタミンやミネラルは含まれていないの?」と思った方もいるのではないでしょうか?
もちろん、これまで紹介したエサにビタミンやミネラルは「多少」入っています。しかし、馬が本当に必要としている量を考える際に、「ほとんど入っていないに等しい程度」しか含まれていません。

では、どのようにビタミンやミネラルを与えればよいのでしょうか?そこで配合飼料の出番となります。

配合飼料(代表的なもの)

糖質    ★★☆
繊維    ★☆☆
タンパク質 ★★☆
脂質    ★☆☆
ビタミン  ★★★
ミネラル  ★★★

配合飼料は、糖質・繊維・タンパク質・脂質がバランスよくなるように単体飼料を組み合わせており、そこにビタミン・ミネラルのサプリメントを追加がされ、「完全」な飼料となります。
ですから、配合飼料は別名コンプリートフィードともオールインワン飼料とも呼ばれています。

日本にも配合飼料メーカーが多くありますが、馬用飼料は海外メーカー品も輸入されており、数多くの配合飼料がひしめき合っています。馬の用途によって最適な配合飼料が変わりますので、メーカーのカタログなどを参考に選んでみてください!

配合飼料メーカーの一例

日本農産工業株式会社
みなさんにはヨード卵光のほうがおなじみでしょうか?日本における馬用飼料のパイオニアでもあるのです!

RED MILLS(レッドミルズ)
サラブレッド生産が盛んなアイルランドのメーカー。ヨーロッパを中心に使われいますが、日本にも輸入されています!


馬(サラブレッド)のエサの与え方 重要な4ポイント!

  1. 粗飼料をたっぷり食べさせる
  2. 配合飼料を必要量与えてビタミンとミネラルを補給する
  3. エネルギーが不足する場合は穀類を与える
  4. それでもエネルギーが不足する場合は油を与える

いままでご紹介してきたエサの特徴と馬の消化機能を考えると、この4ポイントを順に考えることが重要になります。ひとつずつ考えていきましょう!

粗飼料をたっぷり食べさせる

馬のエサの少なくとも半分以上は粗飼料(草)であるべきです。

馬は体重の2%程度の重量と食べるとされていますので、500kgの馬の場合はざっくり10kg食べることができ、「5kg以上は粗飼料(草)にしましょう」ということになります。

もし放牧地がある場合は、1日の半分以上放牧することで十分な粗飼料を食べることができるでしょう。放牧地がない場合は乾草やサイレージをしっかり与えなくてはなりません(※サイレージの場合は重量のおよそ半分が水分ですので、注意が必要です)。

配合飼料を必要量与えてビタミンとミネラルを補給する

馬のエサといえば、エン麦やフスマを思い浮かべるかもしれませんが、まず配合飼料を考えましょう。

メーカーのカタログやパンフレットに書かれている推奨給与量を与えることで、ビタミンとミネラルを満たすことができます。これはなんと世界共通の認識となっていますので、飼料メーカーのカタログを信じましょう。
飼料メーカーは世界中の馬の研究成果を参考に(または自分たちで研究しており)配合飼料を設計していますので、素人である私たちがアレンジすることは非常にキケンです。

しかし、1点だけ注意する必要があります。
配合飼料には、ビタミンやミネラルのほかに糖質・繊維・タンパク質・脂質がバランスよく含まれています。つまりビタミンとミネラルのために配合飼料を与えるということは、一緒にエネルギーやタンパク質を与えていることになります。
もし馬が太り気味だったり、あまり運動をしていないなどエネルギーを必要としていない場合、配合飼料をしっかり与えるとさらに太ってしまい健康を害する可能性があります。

このような場合は、配合飼料を与えず、ビタミンやミネラルのみ凝縮されているサプリメントを与えましょう(私たちがドラッグストアでみかけるマルチビタミン・ミネラルのようなサプリメントですね)。

エネルギーが不足する場合は穀類を与える

穀類の主成分は糖質であり、馬にとって草よりもエネルギー含有量が高いです。これまでで配合飼料も与えられていますので、それでもエネルギーが不足する場合は、たくさんの運動をしていたり、子どもを産んで授乳しているなどの馬であることが多いです。

糖質は体内で吸収されたあと、インスリンのはたらきにより各器官に運ばれエネルギー源となります。特に筋肉においては余剰分はグリコーゲンとして蓄えられ、運動中のエネルギー源としても活躍しますので、競走馬にとっては重要な栄養素といえるでしょう。

しかし、馬は糖質の消化能力が低いことを考えなくてはなりません。目安としては、1回あたり1.5kg程度に抑えなくては消化不良を起こすとされています。1回あたりの給与量を守り、さらに与えすぎて粗飼料を食べる量が減らないようにしましょう。

それでもエネルギーが不足する場合は油を与える

エネルギーが不足しているというのは、馬が痩せてきたり筋肉が落ちてきたりしていることが指標になりますので油を与えましょう。

油は植物油がベストです。
動物性油脂(ラードなど)も馬は消化できますが、嗜好性が悪く一般的ではありません。
植物油は、キャノーラ油、コメ油、大豆油、ヒマワリ油など、本当にスーパーマーケットに売られているようなものを馬は好みます。

また、油は穀類のおよそ3倍のエネルギーを含みます。
つまり、油300gは、エン麦900g、およそ1kgほどと同じエネルギーがあることを覚えておきましょう。
もし「エン麦を1kg追加したい……でもこれ以上はエン麦は与えられない」というときは、エン麦1kgの代わりに油を300gほど与えることで効率的にエネルギーを補給できます。


馬にニンジンを与えても平気なの?

さて、ここまで理解した方なら、ニンジンをエサとして与えて平気かどうか、もうわかるはずです!

答えは「OK」です!

では、ニンジンの栄養ステータスを見てみましょう!

ニンジン

糖質    ★★☆
繊維    ☆☆☆
タンパク質 ★☆☆
脂質    ☆☆☆
ビタミン  ★★★(※ビタミンA)
ミネラル  ☆☆☆

これは、ニンジンからすべて水分を除いた場合です。
ニンジンは普段目にする状態でおよそ8~9割が水分です。ニンジンを食べたら甘いように、主に糖質が含まれています。糖質はエネルギー源になるため、馬にニンジンを与えても問題はありません。

また、ビタミンAの前駆物質であるβカロテンが含まれており、体内でビタミンAに変換されますが、そのほかのビタミンの補給源にはならないことには注意が必要です。

しかし、実際のところ、必要かどうかは別問題ですよね。
なぜなら、配合飼料ですでにビタミンやミネラル、さらにエネルギーやタンパク質は補給されているからです。さらに9割が水分でエネルギーにならないことを考えると、ニンジンは非常にコストパフォーマンスが低いといえます。もし近所にニンジン農家さんがいて、クズニンジンがもらえるような環境でもない限り、わざわざ与える必要はかぎりなく薄いです!

もちろん、観光牧場などでエサやり体験ということでしたら、馬にとって「おやつ」感覚になるでしょう!


まとめ

  • 馬のエサの基本は粗利用(草)。たっぷり食べさせる!
  • エサで不足しがちなのはビタミンとミネラル。配合飼料で補給しよう!
  • ニンジンは主食にはならない!おやつとして考えよう!

今回は、馬のエサの種類と、その使い方、さらにニンジンを食べさせてよいかどうかについてまとめてみました。

馬は、草だけで生きていけますが、やはり人間とともに生きるためにはエネルギーもタンパク質もたくさん必要になってきますし、からだの調子を整えるビタミンやミネラルも重要です。

馬は高価な動物ですから、健康に配慮したエサを考えることがとても大切になります。
馬のエサや栄養のことで気になったことがある場合は、地域の飼料販売会社や国内の飼料メーカーに問い合わせてみるとよいでしょう!きっとあなたにとっての相談相手になってくれるはずです!

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